「ごめん。あまり動かない方がいいのに。」
「ううん、いいの。この世界のためになるなら、それはこの子のためにもなることよ。」
「ありがとう、フェリエ。」
研究室の一角。厳重に閉ざされ、存在そのものも限られたメンバーにしか明かされていない隠し部屋にカラナとフェリエは訪れていた。
「父さん。使わせてもらうよ。」
辞典のような分厚い本にカラナとフェリエが手をかざすと、外見に似つかわしくない電子音と共に本が開く。
その正体は二人の「父」であるユーラシアがカラナに遺した、旧世界のデータベース。解錠にはエクリプス二名の認証が必要となるよう設定されている。
「あいつを倒すヒントがあるとしたら、ここしかない。」
半透明の光だけでできたホログラムが空中に投影され、保存されている情報が開示される。
目次だけでも凄まじい量であり、そのいずれの項目も旧世界の叡智を綴ったものである。
「技術を正しく使うには……。」
カラナは初めてこの本を開いた時に再生されたユーラシアの遺言を自然と思い出し、自分に言い聞かせるかのように復唱した。